「日本人の歯周病罹患率は8割」と耳にしたことはありませんか?実際のところどうなのでしょうか。
本コラムでは、日本人の年代ごとの歯周病罹患率や予防歯科の先進国であるスウェーデンの状況や取り組みをご紹介いたします。歯周病を予防し、歯の健康寿命を維持するためにもぜひ最後までご覧ください。
日本人は、45歳を超えると約4割、55歳以上になると過半数が罹患しています。これは、歯周ポケットが4ミリ以上の軽度歯周病も含めた割合です。
また、歯周病の初期症状である歯肉出血は、どの年齢層でも約40%の人にみられます。つまり、45歳未満でも初期の歯周病に罹患している可能性があります。一方、20~65歳未満で歯ぐきの痛み・腫れ・出血などの自覚症状がある割合は約15%です。このデータは、無自覚のまま歯周病を発症している人が相当数いることを示唆しています。
「日本人の8割が歯周病」というフレーズがよく使われますが、この数字には歯石が付着しているだけの場合も含まれているため、やや過剰な表現といえるでしょう。
日本は先進諸国に比べ、口腔内の健康に対する意識が低い傾向にあります。本章では、世界で最も歯周病や虫歯が少ない北欧スウェーデンと日本を比較しながら解説いたします。
スウェーデンは1970年代に予防重視の歯科医療を導入し、現在世界で最も歯の寿命が長い国です。スウェーデンの80歳時点での残存歯数は平成29年のデータで約21本に対し、日本は令和4年のデータで約15本です。
スウェーデンの人々が歯の健康寿命を長く保っている理由として、予防歯科の導入が大きいでしょう。スウェーデンでは政府主導による定期検診が実施されており、その国民の受診率は80%以上と非常に高い水準を維持しています。こうした政府主導の取り組みが、初期症状の自覚しにくい歯周病の早期発見と早期治療に寄与しており、歯科に関わる医療費の削減にもつながっています。
予防歯科の重要性から、日本でも1989年に開始した80歳で20本の歯を残す「8020運動」が徐々に浸透し、効果が現れはじめています。
令和4年度の厚生労働省のデータによると、70歳代で20本の歯を維持している人の割合は70%に達しました。また80歳時点では約46%であり、半数近くの人が8020運動の目標を達成しています。年齢別の平均残存歯数は、50歳で26.4本、60歳で24.8本、70歳で21本、80歳で15.6本です。多くの人が歯の健康寿命を延ばすために習慣を改めはじめたと考えられます。
歯周病の予防には「毎日の正しいセルフケア」と「定期的な歯科医院でのメンテナンス」が重要です。本章では、どちらが欠けても歯周病リスクが高まる理由を解説いたします。
歯周病菌は歯垢を栄養源として増殖します。そのため、付着した歯垢(プラーク)を日々の歯みがきで可能な限り落としましょう。手鏡で口の中を確認しながらの歯みがきや歯ブラシだけでなくデンタルフロス、歯間ブラシといった補助器具を使うなどが効果的です。
スウェーデンでは「2+2+2+2テクニック」と呼ばれる歯みがき法を取り入れています。これは1日に2回、フッ素入りの歯みがき粉を2cm使って2分以上歯みがきし、歯みがき後、2時間は飲食を控えるという方法です。このような徹底した歯みがき習慣を取り入れることで歯の健康維持が可能となります。
毎日の歯みがきに加えて歯科医院での定期メンテナンスも重要です。
歯垢は形成から約2日が経過すると歯ブラシでは落とせない歯石に変わりはじめ、約2週間で完全に歯石になります。丁寧に歯みがきをしても、噛み合わせや磨き方のクセによって磨き残しが生じるため、歯科医院での歯石除去が必要です。歯科医院でブラッシング指導を受けるのもよいでしょう。
歯周病は初期段階の自覚症状がほとんどありません。初期には歯ぐきの腫れや変色が見られ、進行すると少しの刺激で歯ぐきから出血します。重度になると歯ぐきが痩せ、やがて歯を支えきれなくなり抜け落ちます。
歯周病の治療は、歯垢や歯石を取り除く「歯周基本治療」が中心です。歯周病が進行し歯周ポケットが深くなりすぎている場合、歯ぐきを切開して歯石を除去する歯周外科治療が必要なこともあります。
歯周病は一度罹患すると完治することはありません。歯科で治療を受け症状を抑制してもセルフケアを徹底して行わない限り、歯周病菌が増殖し、再び症状が進行します。治療終了後も、毎日の歯みがきと歯科医院での定期的なメンテナンスが欠かせません。歯周病予防については当院までお気軽にご相談ください。