歯科コラム

歯周病と全身疾患の関連性

歯周病とは、歯ぐきや歯を支える骨(歯槽骨)に細菌が感染することにより引き起こされる炎症のことです。歯周病菌の毒素は歯槽骨を溶かすため、症状が進行すると歯がグラグラしてきたり、抜けてしまったりします。

歯周病は口腔内だけの問題と思われがちですが、近年の研究によると、心疾患や脳梗塞などさまざまな全身疾患と深く関わっていることが明らかになりました。

本コラムでは、歯周病が全身疾患とどのような関連性があるのか解説いたします。

歯周病が他の疾患の原因に?

日本人が歯を失う原因として、虫歯と並んで歯周病が挙げられます。

30代以上の3人のうち2人は罹患しているといわれますが、歯周病によって歯を失うと、身体にさまざまな悪影響があります。

まず、咀嚼能力が不十分となり食べ物をうまく噛み砕くことができなくなるため、胃腸に負担がかかり、食欲の低下や効率的な栄養の吸収ができなくなります。

さらに、最近では歯周病の研究が進み、上記のほかにも歯周病が全身疾患と関連していることが分かってきました。歯周病菌の放出する毒素は歯ぐきの血管を通して全身に広がり、さまざまな疾患の引き金となっているのです。

歯周病と関連する主な疾患

歯周病が引き起こす疾患には、一見歯周病と無関係に思えるものも多く存在します。なかには、命に関わるような重大な疾患も含まれるため注意が必要です。

歯周病の毒素は下記の疾患を引き起こしたり、悪化させる原因となっています。

  • ・心疾患や脳梗塞
  • ・糖尿病
  • ・認知症
  • ・早産・低出生体重児

各項目について詳しく解説しましょう。

①心疾患や脳梗塞

脳梗塞はプラークや血栓により脳の血管が詰まる疾患です。心筋梗塞では、心臓の血管が詰まります。

血管を詰まらせるプラークは、コレステロールや運動不足など生活習慣が関係すると考えられていましたが、それ以外にも歯周病菌がプラークの形成に関係していると分かってきました。

歯周病に罹患している人が心疾患にかかるリスクは健康な人の15倍ともいわれており、歯周病菌によって様々な心疾患が引き起こされる可能性が指摘されています。

例えば、歯周病菌が血管から心臓へ到達し、血管で炎症を起こすと、狭心症、動脈硬化の原因となります。

②糖尿病

糖尿病と歯周病は密接な関連があるとされており、歯周病が原因で糖尿病が悪化するケースも少なくありません。

歯周病菌が放出する毒素はインスリンの働きを阻害し、糖尿病発症のリスクを高めたり、症状を悪化させたりするリスクがあります。

糖尿病によって免疫力が低下すると、感染症に対する抵抗力が弱まるだけでなく、唾液の分泌量が減少し口腔内の自浄作用をも低下させるため、かつては糖尿病があると歯周病に罹患しやすくなる、または症状を悪化させると考えられていました。

③認知症

歯周病とはまったく無関係に思える認知症も、歯周病との関連性が分かってきました。

認知症の多くはアルツハイマー型認知症ですが、アルツハイマー型認知症の発症には、アミロイドβ(ベータ)と呼ばれるタンパク質の蓄積が関係しています。

アミロイドβは、脳内で生成されるタンパク質で、健康な状態では必要のないものとして分解・排出されます。しかし、何らかの原因でアミロイドβが蓄積してしまうと、アミロイドβの出す毒素によって神経細胞が死滅し脳を委縮させ、アルツハイマー型認知症が進行してしまいます。

近年の研究によると、歯周病菌の毒素はアミロイドβの生成に関与していることが分かってきました。歯周病に罹患している場合は、歯周病菌がアミロイドβの生成を促し、体外に排出する働きを阻害してしまいます。これによりアミロイドβが蓄積し、認知症の発症につながる可能性があるのです。

④早産・低出生体重児

歯周病は早産や低出生体重児にも関連しています。

妊婦が歯周病に罹患している場合、歯周病菌による炎症が歯肉の血管を介して全身に広がり、羊水内で胎児の成長を妨げてしまうと考えられるためです。

妊娠中はホルモンバランスの変化やつわりなどの影響で、口腔内の清潔が保ちにくくなり、歯周病にかかるリスクが高まります。体調の良い時期に歯科を受診し、口腔内を清潔に保ちましょう。

歯周病治療の重要性

上述してきた通り、歯周病は単に歯を失う疾患ではなく全身のさまざまな疾患と関連していることが分かってきました。歯周病を治療することで、他の疾患の症状が軽減するケースも見られています。歯周病の適切な治療は非常に重要であるといえるでしょう。

また、歯周病の予防には定期的な歯科受診が欠かせません。治療後のアフターケアとしても、定期的な受診を心がけることが大切です。全身の健康を守るために、まずは口腔内の健康を意識し、さまざまな病気の予防につなげましょう。

Q1:歯周病は生活習慣病ですか?
A1:歯周病は生活環境が関係しており、生活習慣病の一つです。歯周病予防にはプラークを付着させないために、きちんとしたセルフケア、定期的な歯科受診が欠かせません。
Q2:しっかりと歯磨きしていても、歯周病になりますか?
A2:自分自身ではしっかりと歯磨きができていると思っていても、磨き残しがあるケースが多いです。歯周病予防には、セルフケアと定期的な歯科受診の組み合わせが効果的です。歯科医院で自身の歯みがきでは取り切れない歯垢や歯石を取り除いてもらい、ブラッシング指導を受けて正しい歯みがきを身につけてください。